ヴァールミーキは、ラーマが人間として生まれた由来を語り終え、続けてこの教えを学ぶ資格と、物語が伝えられた経緯を明かします。人々を輪廻の苦しみから導くため、ブラフマーはヴァールミーキにラーマーヤナの完成を命じました。
第1章 序論
第6節 ラーマの歴史
53
वसिष्टरामसंवादं मोक्षोपायकथां शुभाम् ।
ज्ञातस्वभावो राजेन्द्र वदामि श्रूयतां बुध ॥ ५३ ॥
「偉大で聡明な王よ、私は、解脱の手段を説くラーマとヴァシシュタの聖なる対話を、あなたに語りましょう。人の本性を知る者として語ります。賢き方よ、聞きなさい。
54
राजोवच ।
को रामः कीदृशः कस्य बद्धो वा मुक्त एव वा ।
एतन्मे निश्चितं ब्रूहि ज्ञानं तत्त्वविदां वर ॥ ५४ ॥
王は言いました。
「知るべき真理を知る者のなかでも最上の方よ、ラーマとは誰で、どのような者なのですか。誰に束縛され、あるいは本当に解脱しているのですか。このことを、確かな知識として私に話してください。」
55
वाल्मीकिरुवाच ।
शापव्याजवशादेव राजवेषधरो हरिः ।
आहृताज्ञानसम्पन्नः किञ्चिज्ज्ञोऽसौ भवत्प्रभुः ॥ ५५ ॥
ヴァールミーキは言いました。
「ハリは、呪いをきっかけとして王子の姿をとり、みずから招いた無知を身に帯び、限られた知しか持たないあなたの主となったのです。
56
राजोवच ।
चिदानन्दस्वरूपे हि रामे चैतन्यविग्रहे ।
शापस्य कारणं ब्रूहि कः शप्ता चेति मे वद ॥ ५६ ॥
王は言いました。
「ラーマは意識と歓喜を本性とし、意識そのものを身体とする方です。そのラーマに、なぜ呪いが及んだのですか。誰が呪ったのか、その理由を話してください。」
57
वाल्मीकिरुवाच ।
सनत्कुमारो निष्काम अवसद्ब्रह्मसद्मनि ।
वैकुण्ठादागतो विष्णुस्त्रैलोक्याधिपतिः प्रभुः ॥ ५७ ॥
ヴァールミーキは言いました。
「欲望を持たないサナトクマーラは、ブラフマーの宮殿に住んでいました。そのとき、三界の主であるヴィシュヌが、ヴァイクンタからやって来ました。
58
ब्रह्मणा पूजितस्त्र सत्यलोकनिवासिभिः ।
विना कुमारं तं दृष्ट्वा ह्युवाच प्रभुरीश्वरः ॥ ५८ ॥
その主なる神は、ブラフマーとサティヤローカの住人たちから迎えられました。しかし、クマーラだけは彼を迎えませんでした。そこで神は、彼を見てこう言いました。
59
सनत्कुमार स्तब्धोऽसि निष्कामो गर्वचेष्टया ।
अतस्त्वं भव कामार्तः शरजन्मेति नामतः ॥ ५९ ॥
「サナトクマーラよ、欲望を持たないことを誇り、尊大に振る舞っている。だから、シャラジャンマという名で生まれ、欲望に苦しむ者となりなさい。」
60
तेनापि शापितो विष्णुः सर्वज्ञत्वं तवास्ति यत् ।
किञ्चित्कालं हि तत्त्यक्त्वा त्वमज्ञानी भविष्यसि ॥ ६० ॥
サナトクマーラもまた、ヴィシュヌに呪いをかけて言いました。
「あなたはすべてを知る者ですが、しばらくのあいだその全知を手放し、無知な者となるでしょう。」
61
भृगुर्भार्यां हतां दृष्ट्वा ह्युवाच क्रोधमूर्च्छितः ।
विष्णो तवापि भार्याया वियोगो हि भविष्यति ॥ ६१ ॥
また、聖者ブリグは、自分の妻がヴィシュヌによって殺されたのを見て、怒りに我を忘れ、こう言いました。
「ヴィシュヌよ、あなたもまた、妻と離ればなれになるでしょう。」
62
वृन्दया शापितो विष्णुश्छलनं यत्त्वया कृतम् ।
अतस्त्वं स्त्रीवियोगं तु वचनान्मम यास्यसि ॥ ६२ ॥
ヴィシュヌは、夫の姿をとってヴリンダを欺いたため、彼女からも呪われました。
「あなたは私を欺いた。だから、私の言葉によって、妻との別離を経験するでしょう。」
63
भार्या हि देवदत्तस्य पयोष्णीतीरसंस्थिता ।
नृसिंहवेषधृग्विष्णुं दृष्ट्वा पञ्चत्वमागता ॥ ६३ ॥
さらに、デーヴァダッタの妊娠した妻が、パヨーシュニー川の岸辺で、ヴィシュヌが人獅子の姿をとったのを見て、恐怖のあまり命を落としました。
64
तेन शप्तो हि नृहरिर्दुःखार्तः स्त्रीवियोगतः ।
तवपि भार्यया सार्धं वियोगो हि भविष्यति ॥ ६४ ॥
妻を失って苦しんだその夫は、人獅子となったハリを呪いました。
「あなたもまた、妻と離ればなれになるでしょう。」
65
भृगुणैवं कुमारेण शापितो देवशर्मणा ।
वृन्दया शापितो विष्णुस्तेन मानुष्यतां गतः ॥ ६५ ॥
このように、ヴィシュヌはブリグ、サナトクマーラ、デーヴァダッタ、ヴリンダから呪いを受け、そのため人間の姿をとって地上に生まれたのです。
66
एतत्ते कथितं सर्वं शापव्याजस्य कारणम् ।
इदानीं वच्मि तत्सर्वं सावधानमतिः शृणु ॥ ६६ ॥
これで、呪いが生じたすべての理由をあなたに語りました。これから他のすべての事柄をお話しします。心を集中して聞きなさい。」
第2章 ラーマーヤナ執筆の理由
第1節 この書を読む資格のある者
1
दिवि भूमौ तथाकाशे बहिरन्तश्च मे विभुः ।
यो विभात्यवभासात्मा तस्मै सर्वात्मने नमः ॥ १ ॥
天において、地において、また虚空において、外にも内にも、光輝を本性として輝く、私の主なるその全我に礼拝。
2
वाल्मीकिरुवाच ।
अहं बद्धो विमुक्तः स्यामिति यस्यास्ति निश्चयः ।
नात्यन्तमज्ञो नोत ज्ञः सोऽस्मिञ्छास्त्रेऽधिकारवान् ॥ २ ॥
ヴァールミーキは言いました。
「私は束縛されている、解放された者になりたい――この確信を持ち、まったくの無知でもなく、また完全に知り尽くしている者でもない人が、この教えを学ぶ資格を持ちます。
3
कथोपायान्विचार्यादौ मोक्षोपायानिमानथ ।
यो विचारयति प्रज्ञो न स भूयोऽभिजायते ॥ ३ ॥
物語によって示される手段をまずよく考え、続いてここに説かれる解脱の手段を思索する賢者は、二度と生まれることがありません。
4
अस्मिन्रामायणे रामकथोपायान्महाबलान् ।
एतांस्तु प्रथमं कृत्वा पुराहमरिमर्दन ॥ ४ ॥
敵を打ち破る者よ、私はこのラーマーヤナに、ラーマの物語という強力な手段を、まず最初にまとめました。
5
शिष्यासास्मि विनीताय भरद्वाजाय धीमते ।
एकाग्रो दत्तवांस्तस्मै मणिमब्धिरिवार्थिने ॥ ५ ॥
そして、心を集中した聡明で従順な弟子バラドヴァージャに、それを授けました。まるで海が、宝を求める者に宝石を与えるように。
6
तत एते कथोपाया भरद्वाजेन धीमता ।
कस्मिंश्चिन्मेरुगहने ब्रह्मणोऽग्र उदाहृताः ॥ ६ ॥
そこで、この物語による手段は、聡明なバラドヴァージャによって、メール山のある深い森で、ブラフマーの前に語られました。
7
अथास्य तुष्टो भगवान्ब्रह्मा लोकपितामहः ।
वरं पुत्र गृहाणेति तमुवाच महाशयः ॥ ७ ॥
すると、世界の祖である尊きブラフマーは彼を喜び、偉大な心をもってこう言いました。
「息子よ、望む最上の恩寵を受け取りなさい。」
8
भरद्वाज उवाच ।
भगवन्भूतभव्येश वरोअयं मे/ऽद्य रोचते ।
येनेयं जनता दुःखान्मुच्यते तदुदाहर ॥ ८ ॥
バラドヴァージャは言いました。
「過去と未来の主よ、人々が苦しみから解放される手段を、私に教えてください。それが、いま私の望む恩寵です。」
第2節 ブラフマーの命令
9
श्रीब्रह्मोवाच ।
गुरुं वाल्मीकिमत्राशु प्रार्थयस्व प्रयत्नतः ।
तेनेदं यत्समारब्धं रामायणमनिन्दितम् ॥ ९ ॥
ブラフマーは言いました。
「急いで、師ヴァールミーキに、彼が書き始めた非の打ちどころのないラーマーヤナを、力を尽くして完成させるよう頼みなさい。
10
तस्मिञ्छ्रुते नरो मोहात्समग्रात्संतरिष्यति ।
सेतुनेवाम्बुधेः पारमपारगुणशालिना ॥ १० ॥
それを聞けば、人はあらゆる迷妄を越えてゆくだろう。無量の徳を備えたラーマが海に架けた橋によって、海の向こう岸へ渡るように。」
11
श्रीवाल्मीकिरुवाच ।
इत्युक्त्वा स भरद्वाजं परमेष्ठी मदाश्रमम् ।
अभ्यागच्छत्समं तेन भरद्वाजेन भूतकृत् ॥ ११ ॥
ヴァールミーキは言いました。
こう語ると、万物の造り主である至高者ブラフマーは、バラドヴァージャを伴って、私の庵へやって来ました。
12
तूर्णं संपूजितो देवः सोऽर्घ्यपाद्यादिना मया ।
अवोचन्मां महासत्त्वः सर्वभूतहिते रतः ॥ १२ ॥
私は神をただちに、献水や洗足の水などを供えて恭しく迎えました。万物の福利を願う偉大な神は、私にこう告げました。
13
रामस्वभावकथनादस्माद्वरमुने त्वया ।
नोद्वेगात्स परित्याज्य आसमाप्तेरनिन्दितात् ॥ १३ ॥
「優れた聖者よ、ラーマの本性を語るこの非の打ちどころのない書を、完成するまで、倦んだからといって捨ててはならない。
14
ग्रन्थेनानेन लोकोऽयमस्मात्संसारसंकटात् ।
समुत्तरिष्यति क्षिप्रं पोतेनेवाशु सागरात् ॥ १४ ॥
この書によって、人々はこの輪廻の難所を、船で海を渡るように、たちまち越えてゆくだろう。」
15
वक्तुं तदेवमेवार्थमहमागतवानयम् ।
कुरु लोकहितार्थं त्वं शास्त्रमित्युक्तवानजः ॥ १५ ॥
生まれざるブラフマーは言いました。
「私はまさにこのことを伝えるために来た。人々のため、この教えを完成させなさい。」
16
मम पुण्याश्रमात्तस्मात्क्षणादन्तर्द्धिमागतः ।
मुहूर्ताभ्युत्थितः प्रोच्चैस्तरङ्ग इव वारिणः ॥ १६ ॥
そう言うと、その神は私の聖なる庵から瞬く間に姿を消しました。水面に高く立ち上がった波がたちまち消えるように。
17
तस्मिन्प्रयाते भगवत्यहं विस्मयमागतः ।
पुनस्तत्र भरद्वाजमपृच्छं स्वस्थया धिया ॥ १७ ॥
神が去ると、私は驚きに打たれました。心を静め、そこにいたバラドヴァージャに尋ねました。
18
किमेतद्ब्रह्मणा प्रोक्तं भरद्वाज वदाशु मे ।
इत्युक्तेन पुनः प्रोक्तं भरद्वाजेन तेन मे ॥ १८ ॥
「ブラフマーは何とおっしゃったのか。バラドヴァージャ、すぐに教えてくれ。」
私がこう尋ねると、彼は改めて私に答えました。
19
भरद्वाज उवाच ।
एतदुक्तं भगवता यथा रामायणं कुरु ।
सर्वलोकहितार्थाय संसारार्णवतारकम् ॥ १९ ॥
バラドヴァージャは言いました。
「尊き神はこうおっしゃいました。『すべての人々のために、輪廻の海を渡る手段となるラーマーヤナを完成させなさい。』」