『枕草子』三月三日、春の景色

2026-10-04 記
トピック: AI記事: 日本古典: 枕草子

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三月三日、春の景色

原文

三月三日、うららくとのどかに照りたる。桃の花の今咲きはじめむ。柳など、いとをかしきこそ更なれ。それもまだ、まゆにこもりたるこそをかしけれ。広ごりたるはにくし。花も散りたる後はうたてぞ見ゆる。おもしろく咲きたる櫻を長く折りて、大なる花瓶にさしたるこそをかしけれ。櫻の直衣に、出袿して、客人にもあれ、御兄の公達にもあれ、みたるに、婿などうちひたる、いとをかし。そのわたりに、鳥蟲のひたひつきいと美しうして飛びありく、いとをかし。木々のこの葉、まだ繁うはなうて、わかやかに青みたるに、霞も霧もへだてぬ空の景色の、何となくそぞろにをかしきに、少し曇りたる夕つかた、夜など、忍びたる杜鵑の、遠うそら耳かと覚ゆるまで、たどくしき声を聞きつけたらん、何ごこちかはせん。

現代語訳

三月三日は、うららかでのどかに日が照っている。桃の花が今にも咲き始めようとしている。柳などは、これからいよいよ趣深くなる。まだ芽が薄い殻に包まれているのも趣深いが、葉が広がりきった姿は好ましくない。花も散った後はいやなものに見える。見事に咲いた桜を長く折り取り、大きな花瓶に挿してあるのも趣深い。桜色の直衣に出袿をしている人が、客人であれ、兄君の公達であれ、その姿を眺めていると、婿などもそこに連れ立っているのが趣深い。そのあたりを鳥や虫が美しい姿で飛び回るのも趣深い。木々の葉はまだ茂りきらず、若々しく青みを帯びている。霞も霧もさえぎらない空の眺めが、何となく心を浮き立たせる。少し曇った夕暮れや夜など、人目を忍んで鳴くホトトギスの、不思議な響きの声を聞きつけたなら、遠くからの空耳かと思うほどのその声に、どんな心地がするだろう。

読むための手がかり

三月三日の春の景色は、桃の花が咲き始める気配や、芽鱗に包まれた柳、青み始めた木々の葉に目を向けます。柳は芽が開ききる前の姿を趣深いとし、葉が広がりきった姿や、花が散った後は好ましくないと述べています。

桜色の直衣に出袿を重ねた装い、飛び交う鳥や虫、霞や霧に隔てられない空へと視線が広がり、最後は夕暮れや夜に人目を忍んで鳴くホトトギスの声へ移ります。初夏を告げる鳥の声が遠くからかすかに聞こえたときの心地を、清少納言は問いかける形で結んでいます。

装束のことば

  • 桜色の直衣:直衣は公卿や殿上人などが着た装束です。ここでは、桜色の直衣に、下に着た衣を見せる着方を重ねています。
  • 出袿:衣を重ね着し、下に着た衣の襟や袖口などを上の衣から見せる装いです。

ホトトギス

ホトトギスは初夏を告げる鳥です。この段では、夕暮れや夜に人目を避けて鳴く声を、遠くから聞きつける情景が描かれています。

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