『オデュッセイア』第1巻第44–62行――アテナ、オデュッセウスを思う


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アテナ、オデュッセウスを思う

すると女神、輝く眼のアテナが彼に答えた。 「わが父、クロノスの子、君主たちの頂に立つ方よ、 あの男がふさわしい破滅のうちにあるのは、まことに当然です。 同じことをする者なら、ほかの誰もが滅びればよい。 けれど賢きオデュッセウスを思うと、私の胸は痛みます、 不運な彼は、親しい者たちから遠く離れ、長く苦難を味わっている、 海に囲まれた島で。そこは海のへそがあるところ。 木々に覆われた島で、そこには女神が館を構えて住んでいます、 禍々しい心を持つアトラスの娘が。アトラスは海の あらゆる深みを知り、みずから高くそびえる柱を支えています、 その柱は大地と天を両側から支えている。 その娘が、悲嘆に暮れる哀れな彼を引き止め、 いつも柔らかく口上手な言葉で彼を魅了して、 イタケを忘れさせようとしています。けれどオデュッセウスは、 自分の国から立ち昇る煙を見ることを願い、 死ぬことさえ望んでいます。それなのに、あなたの心は 少しも動かされないのですか、オリュンポスの方よ。オデュッセウスは アルゴス勢の船のかたわら、あなたを喜ばせようと犠牲を捧げたではありませんか、 広々としたトロイアの地で。ゼウスよ、なぜ彼にそれほど怒っておられるのですか。」

平易な日本語

アテナはゼウスに、オデュッセウスを助けてほしいと訴える。彼は海に囲まれた島で、アトラスの娘に引き留められている。彼女は言葉巧みにイタケを忘れさせようとするが、オデュッセウスは故郷を思い続け、帰れるなら死をもいとわないほど苦しんでいる。アテナは、トロイアでゼウスに犠牲を捧げた彼を、なぜゼウスがそこまで怒るのかと問いかける。

訳注

  • アテナ — ゼウスにオデュッセウスの苦境を訴え、彼の帰還を促す女神。ここではオデュッセウスを思う心の痛みと、トロイアでゼウスに犠牲を捧げたことを語る。
  • アトラス — 海の深みを知り、天と大地を支える柱を持つ者としてアテナに語られる。カリュプソの父でもある。
  • 海のへそ — 海の中心をへそにたとえた表現。アテナはオデュッセウスが長く苦難を受けている島の位置を、この言葉で印象づける。
  • アルゴス勢 — ギリシャ勢を指す叙事詩的な呼び方。ここではトロイアの船々のそばでゼウスに犠牲が捧げられた場面を示す。
  • 広々としたトロイア — アテナがゼウスへ、オデュッセウスはトロイアで犠牲を捧げていたと問い返すときの地名表現。
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