祭の支度
原文
祭近くなりて、青朽葉、二藍などのものどもおしまどひつつ、細櫃の蓋に入れ、紙などにけしきばかり包みて、行きちがひもて歩くこそをかしけれ。末濃、村濃、巻染など、常よりもをかしう見ゆ。童女の頭ばかり洗ひつくろひて、形は皆痩えほころび、打ち乱れかよりたるもあるが、履子、笠などの緒すげさせ、裏をさせなどもて騒ぎ、いつしかその日にならんと、急ぎ走り歩くもをかし。怪しう踊りて歩く者どもの、さうざうきたてつれば、いみじく、ちゃうざといふ法師などのやうに、ねりさまよふこそをかしけれ。ほどくにつけて、親をばの女、姉などの供して、つくろひ歩くもをかし。
現代語訳
祭が近づくと、青朽葉や二藍などの装束を急いで取りまとめ、細櫃の蓋に入れたり、紙などで形ばかり包んだりして、互いに行き来しながら運び歩くのが趣深い。末濃、村濃、巻染などの染め方も、いつもより美しく見える。童女たちは頭だけでも洗って身づくろいをするが、着物は皆ほころび、乱れて寄り集まっている者もいる。それでも履物や笠の緒を通させ、裏を付けさせるなどして大騒ぎし、早く祭の日になれと急いで走り回るのも面白い。奇妙な踊りをしながら歩く者たちがにぎやかに騒ぎ立てると、ことに騒がしく、ちゃうざという法師などのように練り歩くのが趣深い。親や叔母の女房、姉などが付き添って、身なりを整えながら歩くのも趣深い。
祭を待つ人々
祭が近づくと、装束や染め物を整え、童女たちは履物や笠の支度を急ぎます。身なりがまだ整わないまま、祭の日を待ちきれずに走り回る姿や、踊りながら練り歩く人々、付き添って身づくろいを手伝う親や姉たちまで、祭を迎える町のにぎわいが描かれています。
色と装い
- 青朽葉・二藍:青朽葉は青みを帯びた朽葉色、二藍は藍と紅の色を重ねた色名です。祭の装束や贈り物に用いる色として挙げられています。
- 細櫃の蓋:細櫃は細長い箱です。祭の支度に使う品を入れて運ぶ様子が描かれています。
- 末濃・村濃・巻染:いずれも染め方の名です。濃淡や染めむら、布を巻いて染める方法など、布に現れる色の違いをいいます。
童女と祭の支度
童女は幼い女の子を指します。ここでは祭に出る子どもたちが身支度をし、踊り歩く様子が描かれます。履物や笠の緒を整え、裏を付けるなど、祭の日に向けた準備が続きます。「ちゃうざ」は本文の呼び名をそのまま示し、踊りながら練り歩く法師の姿にたとえられています。