テレマコス、客人に身元を問う
156 その一方でテレマコスは、輝く眼のアテナに話しかけた。
157 ほかの者たちに聞こえぬよう、頭を近づけて。
158 「親愛なるお客人、私が何か言っても、気を悪くなさらないでしょうか。
159 求婚者たちは、竪琴と歌のことばかり気にかけています、
160 気楽なものです。他人の生計を、償いもせず食いつぶしているのですから。
161 その人の白骨は、雨に打たれて朽ちているのかもしれません、
162 大地に横たわっているか、それとも海の波が転がしているか。
163 もしあの人が、イタケへ帰って来た姿を彼らが目にしたなら、
164 皆、自分の足がもっと軽ければと祈るでしょう、
165 金や衣服をもっと持ちたいと願うよりも。
166 けれど今、あの人はひどい運命のもとに亡くなりました。私たちには慰めもありません、
167 地上の人々の誰かが、帰って来ると言ってくれたとしても。
168 あの人の帰還の日は、もう失われたのです。
169 さあ、これを私に話し、ありのままに答えてください。
170 あなたは誰で、どこの人ですか。あなたの町とご両親はどこに。
171 どんな船でここへ来たのですか。船乗りたちは、どうやって
172 あなたをイタケへ連れて来たのですか。彼らは自分を何者だと言いましたか。
173 まさか、歩いてここへ来たとは思いません。
174 これも本当のことを話してください、よく知りたいのです、
175 あなたがここへ来たばかりなのか、それとも父の昔からの客人なのか。
176 というのも、わが家には多くの人々が客として訪れました、
177 父自身も人々のもとを訪ね歩く人だったからです。」
平易な日本語
テレマコスはアテナに、求婚者たちが父の財産を食べつくし、宴を楽しんでいると打ち明ける。父はもう帰らないかもしれない。そう思い始めたテレマコスは、ほかの者に聞こえないよう、客人の身元や来訪の目的を尋ねる。
訳注
- 求婚者たち — オデュッセウスの館に居座る者たち。テレマコスは、彼らが父の財産を食べながら歌と竪琴を楽しんでいると非難する。
- 他人の生計 — テレマコスが求婚者たちの振る舞いを非難する言葉。家の主人が不在のあいだ、その財産を償いもせず使い果たしているという。
- 白骨 — テレマコスは父の死を疑い、骨が陸にあれば雨に朽ち、海にあれば波に転がされているかもしれないと語る。
- 帰還の日 — 父オデュッセウスが故郷へ戻る日。テレマコスはその日が失われたと嘆く。
- 船乗りたち — テレマコスは、客人をイタケへ運んだ船乗りたちが、自分たちを何者だと名乗ったのか尋ねる。
- 父の昔からの客人 — テレマコスが客人に尋ねる身元の一つ。オデュッセウスが人々をよく訪ねていたため、父の旧知の客が家を訪れることも多かった。