『マーリンの生涯』――予言の成就と森への帰還


グエンドロエナは悲しげに戸口に立ち、彼を見送った。 その場には王妃もいて、友人たちもこの出来事に心を動かされた。 人々は、狂気の男が物事の隠れた真相を知り、妹の情事まで見抜いていたことに大いに驚いた。 それでも、少年の死については彼が嘘をついたと思った。一つと言うべきところを、三つも言ったのだから。 彼の言葉は長い年月、むなしいものと思われていた。 だが少年が成人すると、その予言は誰の目にも明らかになり、多くの人々の確信するところとなった。

ある日、少年は犬を連れて狩りに出かけ、森の木陰に隠れる鹿を見つけた。 犬たちを放つと、鹿を見つけた犬は道を外れて駆け、吠え声であたりを満たした。 少年自身も馬に拍車をかけて追い、角笛を吹き、声を上げて合図しながら、従者たちを叱咤して、もっと速く来るよう命じた。 そのあたりには、岩にぐるりと囲まれた高い山があり、そのそばを川が平地へと流れていた。 鹿は追手を逃れて川へ飛び込み、いつものように隠れ場所を探した。 少年は勢いに駆られ、まっすぐ山を越え、転がる岩のあいだに鹿を探した。 そのとき、馬が高い崖から滑り落ち、少年もまた、山の急斜面から川へ転落した。 ただし少年の足だけは木に引っかかり、ほかの体は水中に沈んだ。 こうして彼は落ち、溺れ、木にぶら下がった。 これでマーリンが告げた三つの危難は、すべて真実となった。

訳文中の語句 訳注
三つの危難 マーリンは少年に、崖からの転落、木の下での死、川での死という異なる予言を告げていた。ここでは狩りの最中に起きた事故がそれらを重ね合わせ、予言が成就する。

かつて森に入り、野獣のように暮らし、雪の下、雨の下、激しい風のなかで凍りついた霜に耐えながら暮らしていた男―― 彼にとっては、町々で法を行い、荒々しい民を治めるより、その暮らしのほうがよかったのだ。

そうして年が流れるうち、彼が森の獣たちとそのような生活を送っていたころ、グエンドロエナは婚姻のしきたりに従って別の男に嫁ぐことになった。 夜空では月の角が明るく輝き、天の丸天井を飾る光がことごとくきらめいていた。 いつもより空気は澄んでいた。冷たく荒々しい北風が雲を追い払い、乾いた風で霞をぬぐって、空を晴れ渡らせたのだ。 予言者は高い山から星々の運行を眺め、夜空の下でひそかにこうつぶやいた。

「火星の光芒は何を告げるのか。いま赤く輝くこの光は、王の死と、新たな王の誕生を予告するのか。 私にはそう見える。コンスタンティヌスは亡くなり、その甥コナヌスが、叔父を殺して王冠を奪い、王となった。 だが、天頂のウェヌスよ。黄道の下を定められた道筋に沿って進み、行く太陽に付き従うあなたが、二つの天空を裂くあの光と、何の関わりがあるのか。 あれは、私の愛が引き裂かれる兆しなのか。あのような光は、別れた恋人たちを示すのだから。 もしかすると、グエンドロエナは私がいないあいだに去り、別の男の腕に抱かれて喜んでいるのだろう。 こうして私は敗れ、彼女には別の男が夫として仕える。 私がぐずぐずしているあいだに、私の権利は奪われていく。 そうだ、動かぬ恋人は、怠けず、遠くにおらず、すぐそばにいる男に負けるものだ。 だが私は妬まない。今、吉兆のもとに結婚し、私の許しを得て、新しい夫と暮らせばよい。 明日、夜が明けたら、私は出かけよう。去るときに約束した贈り物を持って行こう」

訳文中の語句 訳注
火星の光芒 マーリンは空に現れた火星の光を王の死と次の王の出現の兆しと読む。続けてウェヌスの近くに見える光を、グエンドロエナとの別離の兆しではないかと案じる。
ウェヌス ローマ神話の愛と美の女神。ここでは天体として描かれ、黄道を進む太陽とともに空を運行する。

そう言うと、彼は森や林をすべて巡った。 鹿の群れをひとつに集め、ダマジカやノロジカも加え、鹿の背にまたがった。 夜が明けると、群れを前に追い立てながら、グエンドロエナが嫁ぐ場所へ急いだ。 そこへ着くと、戸口の前に鹿たちをじっと立たせ、声を張り上げた。 「グエンドロエナ! グエンドロエナ、出ておいで。この贈り物を見てほしい」 彼女は笑みを浮かべてすぐに現れ、鹿にまたがる男と、彼の思いどおりになる鹿たちを見て驚いた。 彼が、羊飼いが羊を草地へ導くように、これほど多くの野獣を一人で連れてきたことにも驚いた。

花婿は高い窓辺に立ち、玉座に座ったまま騎手を眺めて、面白がって笑っていた。 予言者は花婿を見ると、その正体をすぐに見抜いた。 そして、鹿に乗るために使っていた枝角をたちまち折り取り、それを振り上げて花婿に投げつけた。 その頭を深く打ち砕き、命を奪って、魂を風へ放った。 すぐに彼は踵で鹿を駆り立て、逃げ去り、森へ戻ろうとした。 従者たちは四方から駆け出し、野を越えて予言者を追った。 彼はすばやく走り、前に川がなければ、そのまま森まで逃げおおせただろう。 獣が跳び越えて流れを渡ろうとしたとき、マーリンは滑り、激しい流れに落ちた。 従者たちは岸を巡り、泳いでいる彼を捕らえ、屋敷へ連れ帰って妹に引き渡した。

訳文中の語句 訳注
枝角 マーリンは鹿の角を折り取り、花婿へ投げつけて殺す。ラテン語本文は、祝宴に来たマーリンが花婿を殺すという予告の成就として描く。

捕らえられた予言者はまた悲しみに沈み、森へ帰りたがった。縛めを解こうとしてもがき、笑うことを拒み、飲み物も食べ物も受けつけなかった。 その悲しみで、妹まで悲しませた。 彼が喜びをすっかり失い、用意された食事にも手をつけようとしないのを見て、ロダルクスは哀れに思い、町へ連れ出すよう命じた。 道や人々を見て、売られている珍しい品々を眺めれば、歩くうちに気分も明るくなるだろうと思ったのだ。

宮廷から連れ出された彼は、門の前で、みすぼらしい服を着た門番が、服を買う金を恵んでくれと、震える声で通行人に頼んでいるのを見た。 予言者は立ち止まり、貧しい男を見て笑った。 さらに進むと、新しい靴を手にした若者が、靴底を売買しているのを見た。 予言者はまた笑い、これ以上、人々に見られながら広場を歩くのを拒んだ。 何度も振り返る森へ行きたくて、禁じられた道からそちらへ向きを変えようとしていた。

従者たちは屋敷へ戻り、彼が二度笑ったこと、森へ帰りたがっていることを伝えた。 そこでロダルクスは、笑いが何を予告していたのか知りたいと思い、すぐに彼の縛めを解かせた。 笑いのわけを話すなら、いつもの森へ戻ってよいと許した。 予言者は明るい表情でそばに立ち、こう答えた。

「門の前には、薄い服を着た門番が座っていた。 彼は貧しい者のように、服を買う金を恵んでほしいと通行人に頼んでいた。 だがその一方で、彼の下には、長年隠してきた硬貨の山が埋まっていた。彼はひそかに裕福だったのだ。 私はそれを見て笑った。あの男の下の土を掘り返せば、長いあいだ蓄えてきた金が見つかるだろう。 さらに広場へ連れて行かれると、靴と靴底を買っている男を見た。 靴が縫い目から裂け、履き古して穴が開いたら、彼はそれを繕い、また使おうと思っている。 それを見ても私は笑った。あの哀れな男は、靴にも靴底にも、もう二度と使えなくなる。 なぜなら今ごろ、彼は水に沈み、岸辺へ流れ着いているからだ。行って見てくるがよい」

訳文中の語句 訳注
硬貨の山 みすぼらしい門番が、実は自分の下に長年硬貨を隠していたというマーリンの笑いの理由。ロダルクスが地面を掘ると、埋められた財宝が見つかる。

ロダルクスは男の言葉を確かめようと、従者たちを急いで川のあたりへ行かせた。 近くの岸でそのような男が溺れているのを見つけたら、すぐ知らせるよう命じた。 従者たちは命令を果たし、川辺を巡って、砂にまみれて沈んでいる若者を見つけた。 屋敷へ戻って王に報告した。 そのあいだに王は、門番をどかせて、その下の土を掘り返し、埋められた財宝を見つけた。 そして冗談好きな予言者を、敬意を込めて讃えた。

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