『紅楼夢』第一回(中)――中秋の宴と賈雨村の上京志願

2026-10-08 記
トピック: AI記事: 中国古典: 紅楼夢

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中秋の日になった。甄士隠しんしいんは家での宴を終えると、書斎にも酒席を用意した。そして月の下を歩き、賈雨村かうそんを誘いに寺へ向かった。

雨村は、先日、甄家しんけの侍女が二度振り返ったことを、自分を理解してくれる人のしるしだと思い込み、ずっと気にかけていた。ちょうど中秋の夜だったので、月を見ながら思いを募らせ、その場で五言律詩ごごんりっしを詠んだ。

前世から来世まで続く縁えんがどうなるかも分からないのに、あの人を思うたび、悲しみが増していく。 苦しくなっては眉をひそめ、立ち去るときには何度も振り返る。 風に吹かれる自分の影を見ても、月の下で誰が連れ添ってくれるだろう。 月の光に心があるなら、まずあの美しい人の頭に差してほしい。

雨村は詩を詠み終えると、自分の抱負を思い返した。時運に恵まれないことを嘆き、頭をかきながら空を見上げ、さらに二句を高らかに詠んだ。

玉は箱の中で良い値がつくのを待ち、かんざしは化粧箱の中で飛び立つ時を待つ。

ちょうどそこへ士隠が来て、詩を聞いた。士隠は笑って言った。「雨村さんは、本当に大きな志をお持ちですね」雨村は慌てて、「とんでもありません。昔の人の詩を口にしただけなのに、そんなに褒めていただくとは」と答えた。そして「先生はどうしてこちらへ」と尋ねた。

士隠は言った。「今夜は中秋です。みんなで過ごす節句なのに、あなたは寺で暮らしているから、寂しいでしょう。そこで酒と料理を用意しました。うちの書斎で一杯いかがですか」雨村は断らず、「これほど親切にしていただいて、断るわけにはいきません」と答え、士隠と一緒に書斎へ戻った。

ほどなく茶が済み、酒と料理が並んだ。二人は席につき、初めはゆっくり飲んでいたが、話が弾むにつれて杯を交わす勢いも増した。通りの家々から笛や笙の音が聞こえ、頭上には明るい満月が輝いていた。二人はますます楽しくなり、杯を干しては酒を重ねた。

雨村はかなり酔い、月を見ながら思いを込めて、その場で四句の絶句ぜっくを詠んだ。

十五夜の月が満ち、清らかな光が玉の欄干を照らす。 天に丸い月が昇ると、人々はみな仰ぎ見る。

士隠は聞くなり大いに喜んだ。「すばらしい。あなたはいつまでも人の下にいる人ではないと、前から思っていました。今の詩にも、高く飛び立つ兆しが見えます。遠からず出世するでしょう。おめでたいことです」そう言って、自分で酒を一斗いっと注いで祝った。

雨村は飲み干したが、ふと嘆いた。「酒の勢いで大きなことを言っているのではありません。今の世に合った学問なら、私も受験者の一人になれるかもしれません。ただ、今は旅費を用意できないのです。都は遠く、字や文章を書いて稼いでも、そこまで行けません」

士隠は、雨村が話し終える前に言った。「どうしてもっと早く話してくれなかったのです。私も前から助けたいと思っていました。でも会うたびにその話が出なかったので、こちらからは切り出せずにいました。こうなったからには、私も義と利の違いくらい分かります。幸い、来年は大きな科挙があります。急いで都へ行き、春の試験に合格して、学んできたことを生かしてください。旅費などは私が用意します。私を理解者だと思ってくれた甲斐もあるでしょう」

士隠はすぐに小僧を呼び、銀五十両と冬着二揃いを用意させた。それから言った。「十九日は縁起のよい日です。その日に船を買って都へ向かうとよいでしょう。大きく羽ばたいて、来年の冬にまた会えたら、どんなにうれしいことでしょう」

雨村は銀と衣服を受け取り、ひと言礼を述べただけだった。特に気に留めた様子もなく、そのまま飲んで語り続けた。その日は夜も更け、三更さんこうを過ぎて、二人はようやく別れた。

訳注

訳文中の語句訳注
五言律詩五字の句を八句並べる漢詩の形式。ここでは雨村が侍女への思いを詠んでいる。
前世から来世まで続く縁原文の「三生願」。生まれ変わりを越えて続く縁や願いを思わせる。
あの美しい人原文の「玉人」。玉のように美しい人という意味で、雨村が思いを寄せている侍女を指す。
玉は箱の中で良い値がつくのを待ち原文の「玉在匱中求善價」。まだ世に知られていない自分を、箱の中にしまわれた玉になぞらえている。
かんざしは化粧箱の中で飛び立つ時を待つ原文の「釵於奩內待時飛」。かんざしが時機を待つ姿に、自分が世に出る機会を重ねている。
四句の絶句原文の「絶句」。四つの句から成る漢詩の形式。
大きな科挙官吏を選ぶための試験。雨村は合格して官職に就こうとしている。
一斗古代中国の容量単位。時代によって量が違うため、現代の量には換算していない。
三更夜を五つに分けた時刻の三番目。おおよそ夜半ごろを指す。
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