歴史は帝王の鏡――『越鑑通考総論』冒頭


『大越史記全書』「越鑑通考総論」は、歴史を学ぶことの意味を説くところから始まります。

私は次のように聞いている。虞典ぐてんとは、すなわち虞書ぐしょである。孔子こうしが尚書しょうしょを取捨しゅしゃ・整理して典謨てんぼとし、それによって帝王ていおうが身を修め、家を整え、国を治め、天下を平らげる道がいっそう明らかになった。

『春秋しゅんじゅう』はもともと魯ろ国の歴史書であったが、孔子こうしがこれを編修へんしゅうして人物や事柄への称賛と批判を定めて以来、天子てんしの礼制と、命令によって討伐する権限はいっそう重くなった。

だからこそ、聖なる帝王ていおうが天下を治めるにあたって、君主であり師でもある者の責務を担おうと志す者は、帝王の学ていおうのがくを究めなければならない。帝王の学を究めようと志す者は、古今を貫く道理を明らかにしなければならない。

そうであるなら、諸史しょしが編まれるのは、歴代れきだいの君主の鏡と戒めとするためであり、その意図はここにある。

訳注

  1. 虞典・虞書 — 「虞」は堯・舜に関わる古代の名で、ここでは『尚書』に連なる古典的な記録を指します。
  2. 尚書 — 古代の君主の言行・政治理念を収めた経書です。ここでは歴史を政治の規範として読む根拠になっています。
  3. 典謨 — 「典」は模範となる規範、「謨」は政治上の計画・謀議を指します。二字を合わせ、統治の原則と実践的方策を表します。
  4. 修身・斉家・治国・平天下 — 『大学』以来の政治理念を踏まえた表現で、帝王が身を修め、家を整え、国を治め、天下を平らげる道を圧縮して示しています。
  5. 『春秋』・魯国の歴史書 — 『春秋』は魯の年代記を基礎とし、孔子が編修した経書とされます。ここでは、単なる記録が規範的な歴史へ変わったことを述べています。
  6. 称賛と批判 — 褒めることと貶すことです。歴史叙述によって政治的・道徳的な評価を示すことをいいます。
  7. 天子の礼制・命令によって討伐する権限 — 儀礼・制度を定める権限と、命令によって罪ある者を討つ権限です。歴史書が君主の統治権の根拠を明らかにするという議論です。
  8. 君主であり師でもある者の責務 — 君主は政治を行うだけでなく、人々を教え導く師でもあるという儒家的な統治者像です。
  9. 帝王の学 — 君主の徳・政治・制度を、古今の事例から学ぶ学問です。単なる王家の知識ではなく、天下を治めるための実践知です。
  10. 古今を貫く道理 — 古代と現在に通じる政治・人間の道理です。歴史を学ぶ目的として示されています。
  11. 歴代の君主の鏡と戒め — 歴史書を、後代の君主が政治を考える際に参照する手本・警告として位置づけています。
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