『紅楼夢』第八回前半――通霊宝玉と金鎖、冷香丸

2026-10-19 記
トピック: AI記事: 中国古典: 紅楼夢

第八回 賈宝玉かほうぎょく、奇縁により金鎖きんさを知り 薛宝釵せつほうさ、奇しくも通霊の玉を見知る

さて、宝玉ほうぎょくと鳳姐ほうしゃが帰宅して皆に挨拶すると、宝玉は賈母かぼに、秦鐘しんしょうを家の塾へ通わせたいとお願いした。一緒に学ぶ友達がいれば、自分も勉強に励めるというのだ。そして、秦鐘の人柄や振る舞いを、何ともかわいがらずにはいられないと、しきりに褒めた。鳳姐もそばで口添えした。「近いうちに、秦鐘がお祖母さまへご挨拶に来ますよ。」賈母はそれを聞いて喜んだ。鳳姐はそのついでに、明後日、向こうへ芝居を見に行こうと誘った。賈母は年を取っていても、すっかり乗り気になった。明後日、尤氏ゆうしが迎えに来ると、王夫人おうふじん、林黛玉りんたいぎょく、宝玉たちを連れて芝居を見に出かけた。昼ごろ、賈母は家に戻って休んだ。王夫人も静かなのが好きなので、一緒に帰った。そのあと鳳姐が上座に座り、夕方まで十分に楽しんでから、お開きになった。

宝玉は賈母を家へ送り、賈母が昼寝をすると、また芝居を見に戻りたくなった。だが、秦氏たちの邪魔になってはいけないと思った。そのうち、宝釵ほうさが最近、家で病気を養っているのに、まだ見舞いに行っていないことを思い出し、訪ねることにした。奥の居間の裏の脇門を通ると、何か用事に巻き込まれるかもしれない。父に会ったら、なおさら落ち着かない。それなら遠回りをしようと考えた。年配の女中や若い女中たちが着替えを手伝おうとしたが、宝玉は着替えず、そのまま二の門を出ていった。

年配の女中も若い女中も、仕方なく宝玉について出た。皆は向こうの屋敷へ芝居を見に行くのだと思っていたが、通り抜けの間へ来ると、宝玉は東へ北へと曲がり、広間の裏へ回った。すると、この家の食客の詹光せんこうと単聘仁ぜんへいじんが向かいから来た。二人は笑いながら駆け寄り、一人は宝玉の腰に抱きつき、一人は手を取った。「私どもの菩薩さまのような坊ちゃん! よい夢を見たと思ったら、やっとお会いできましたね。」挨拶をして機嫌を尋ね、長々としゃべってから、ようやく離れた。年配の女中が呼び止めた。「お二方は、旦那さまのところへおいでになったのではありませんか。」二人はうなずき、「旦那さまは夢坡斎むはさいの小書斎でお昼寝中です。心配ありませんよ」と言いながら歩いていった。それを聞いて宝玉も笑った。

宝玉は角を曲がり、北の梨香院りこういんへ向かった。ちょうど、銀蔵を取り仕切る呉新登ごしんとう、倉の頭の戴良たいりょう、ほかの差配役たち、合わせて七人が会計の部屋から出てきた。宝玉を見ると駆け寄り、皆、手を下げて控えた。仕入れ担当の銭華せんかだけは、久しぶりに宝玉に会ったので、急いで進み出て片膝を折り、挨拶した。宝玉は笑って手を引き、立たせた。皆は笑って言った。「この前、あるところで、二爺が正方形の紙にお書きになった書を見ました。ますますお上手になられましたね。いつか私どもにも、何枚か飾るものをくださいませんか。」宝玉は笑った。「どこで見たんだい?」皆は答えた。「あちこちにあります。皆、たいそう褒めていて、私どもにも欲しいと言ってくるのです。」宝玉は笑った。「たいしたものじゃないよ。僕付きの小者たちに言っておいてくれればいいから。」そう言いながら歩いていった。皆は宝玉が通り過ぎてから、それぞれ散っていった。

さて、宝玉は梨香院に着くと、まず薛姨媽せついまの部屋へ入った。薛姨媽は女中たちに針仕事の手配をしていた。宝玉が挨拶すると、薛姨媽は手を取って抱き寄せ、笑った。「こんな寒い日に、よく来てくれたわね。早く炕に上がってお座りなさい。」そして熱々のお茶を持ってこさせた。宝玉が「お兄さんは留守ですか」と聞くと、薛姨媽はため息をついた。「あの子は手綱のない馬よ。毎日遊び歩いてばかりで、一日だって家にいないんだから。」宝玉は「お姉さんは、もうすっかりよくなりましたか」と尋ねた。薛姨媽は答えた。「ええ。この前も、気にかけて人をよこしてくれたわね。奥の部屋にいるから、行ってごらんなさい。そちらのほうが暖かいから、あなたもそこで座っていなさい。私も片づけたら入って、お話ししましょう。」

宝玉はすぐに炕から下り、奥の部屋の入口へ行った。少し使い古した赤い絹の柔らかな簾が掛かっていた。簾を上げて一歩入ると、宝釵が炕に座って針仕事をしていた。黒くつややかな髪を結い上げ、蜜合色みつごうしょくの綿入れに、薔薇紫の二色仕立ての金銀鼠きんぎんその袖なし上着、葱黄そうこうの綾絹の綿入りの裙を着ていた。どれも新しすぎず古すぎず、贅沢には見えなかった。口紅を塗らなくても唇は赤く、眉を描かなくても美しかった。顔は銀の盆のようで、目はみずみずしい杏の実のようだった。口数が少ないので、周りの人は、わざと愚かなふりをしているのだと言った。自分の立場を守り、その時々に合わせて暮らすことを、本人は「拙さを守る」と呼んでいた。

宝玉は宝釵を見ながら尋ねた。「お姉さん、もうすっかりよくなりましたか。」宝釵は顔を上げ、宝玉が来たと分かると、すぐ立ち上がって笑顔で答えた。「もうすっかりよくなったわ。心配してくれて、ありがとう。」宝玉を炕の端に座らせ、鶯児おうじにお茶を入れさせた。そして賈母と王夫人の機嫌を尋ね、ほかの姉妹たちの様子も聞いた。

宝釵は宝玉の装いも眺めていた。頭には細い金属線の細工に宝石をはめ込んだ紫金しきんの冠を載せ、額には二頭の竜が珠を捧げる金の額飾りを締めていた。服は秋香色しゅうこうしょくで、立ち上がる蟒の模様があり、白狐の脇の毛皮を使った、袖口の細いものだった。腰には五色の蝶をあしらった飾り紐を結び、首には長寿を願う錠形の飾りと、記名符きめいふという護符を下げていた。そして、生まれたときに口にくわえていた、あの玉もあった。宝釵は笑って言った。「あなたの玉の話はいつも聞くけれど、まだゆっくり見せてもらったことがないわ。今日はぜひ見てみたいの。」そう言って近づくと、宝玉も身を寄せ、玉を首から外して宝釵の手に渡した。

宝釵が手のひらに載せて見ると、玉は雀の卵ほどの大きさだった。明るい朝焼けのように輝き、五色の酥そのような潤いと艶があり、模様が周囲を取り巻いていた。読者の皆さん、この玉こそ、大荒山の青埂峰のふもとにあった、あの頑なな石が姿を変えたものだ。後の人は、それをからかって次のような詩を詠んだ。

女媧じょかが石を練ったという話からして途方もないのに、 またも途方もない話の中で、大荒たいこうの物語が繰り広げられる。 霊妙な真実の世界を離れ、 姿を変えて、新たに臭い皮袋のような肉体をまとう。 運が衰えれば、金だって彩りを失う。 時に恵まれなければ、玉も輝かない。なんと嘆かわしいことか。 白骨は山ほど積もり、姓も名も忘れられる。 その誰もが、かつては貴公子や美しい女たちだったのだ。

あの頑なな石は、自分が姿を変えたありさまと、かさぶただらけの僧が刻んだ篆文てんぶんも記していた。その図にならって、ここにも描いておこう。ただ、実物はごく小さい。生まれてくる赤ん坊が口にくわえられるほどの物だ。実物どおりの大きさに描いたのでは、字が細かすぎて読む人が目をこらすことになり、楽しくない。そこで、形はそのままに少し大きくして、灯の下でも、酔っていても読めるようにした。この訳を先に断っておけば、「お腹の中にいた赤ん坊の口が、どれほど大きかったというのか。こんな不格好で大きな物を、どうやってくわえたのか」と文句を言われずに済むだろう。

通霊宝玉つうれいほうぎょくの正面

失ってはならない。忘れてはならない。仙人の長い命は、いつまでも栄える。

通霊宝玉の反面

一、邪悪な霊を除く。 二、冤疾えんしつという病を癒やす。 三、災いと幸いを知る。

訳文中の語句訳注
冤疾玉の効験として治すと記される病。ここでは具体的な病名や原因を特定せず、原語を残した。

宝釵は見終えると、もう一度玉を表に返して、よく見ながら読み上げた。「失ってはならない。忘れてはならない。仙人の長い命は、いつまでも栄える。」二度読むと、鶯児を振り返って笑った。「お茶を入れにも行かないで、ここでぼんやりして何をしているの。」鶯児はくすくす笑った。「この二句、お嬢様の首飾りにある二句と、対になっているようですね。」宝玉は聞くなり笑った。「お姉さんの首飾りにも八文字あるの? 僕にも見せてよ。」宝釵は言った。「この子の話は聞かなくていいの。文字なんて何もないわ。」宝玉は頼んだ。「ねえ、お姉さん。僕の玉は見せてあげたじゃないか。」宝釵はせがまれて断りきれず、言った。「ある人からいただいた縁起のよい二句を刻んであるから、毎日つけているだけよ。そうでなければ、重いだけで、何がおもしろいものですか。」そう言いながら、並んだ留めボタンを外し、中に着た真っ赤な上着の上から首飾りを取り出した。宝石がきらきら光り、黄金がまばゆく輝いていた。

宝玉はさっそく錠形の飾りを手のひらに載せて見た。確かに片面に四文字ずつ、両面で八文字あり、二句のめでたい予言になっていた。その形も、ここに描いておこう。

金鎖の正面

離れないように。捨てないように。

金鎖の反面

美しい年月が、いつまでも続くように。

宝玉は金鎖の文字を二度読み、自分の玉の文字も二度読んで、笑って尋ねた。「お姉さん、この八文字は僕のと対になっているね。」鶯児は笑った。「かさぶただらけの頭の和尚からいただいたんです。必ず金の品に刻むように、とおっしゃって……。」宝釵は言い終わらせず、お茶を入れに行かないことを叱った。そして宝玉に、どこから来たのかを尋ねた。宝玉は宝釵のすぐ近くにいた。ときおりよい香りが漂ってくるが、何の匂いかわからない。「お姉さん、何の香をたいているの? こんな香りは嗅いだことがないよ。」宝釵は笑った。「私は香をたくのが大嫌いなの。せっかくの服に、煙の匂いがついてしまうでしょう。」宝玉は尋ねた。「じゃあ、何の香りなの?」宝釵は少し考えて言った。「そうだわ。朝飲んだ冷香丸れいこうがんの香りよ。」宝玉は笑った。「冷香丸って、そんなにいい香りなの? ねえ、一粒味見させてよ。」宝釵は笑った。「また無茶を言って。丸薬をむやみに飲んではだめでしょう。」

訳文中の語句訳注
冷香丸薬の名。
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