『紅楼夢』第一回(上)――女媧の石と『石頭記』の始まり

2026-10-02 記
トピック: AI記事: 中国古典: 紅楼夢

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第一回 甄士隠しんしいんが夢の中で不思議な玉を知り、賈雨村かうそんがまだ世に出る前に良家の娘を思う

これは本書の巻頭、第一回である。作者は自らこう述べる。

かつてひとたび夢幻の世界を経験したのち、実際の出来事を隠し、通霊つうれいの物語に託して、この『石頭記せきとうき』を書いた。そこで、真実を隠すという意味を甄士隠しんしいんの名に託したのである。

訳文中の語句訳注
甄士隠しんしいん原文では「真実の出来事を隠す」という「真事隱」と、人物名の「甄士隱」とを同音で重ねている。
通霊つうれい霊妙な力が通じること。物語では、のちに賈宝玉が身につける「通霊宝玉」へつながる。

では、この書に記されているのは、どのような出来事であり、どのような人々なのか。作者はさらに言う。

今の私は世間の塵にまみれて忙しく過ごしながら、何一つ成し遂げられずにいる。ふと、かつて身近にいた女性たちのことを思い出し、その一人ひとりを詳しく振り返ってみると、振る舞いも見識も、みな私より優れていた。堂々たる男子でありながら、私はまことに彼女たちにも及ばない。いくら恥じても取り返しはつかず、まったくどうしようもない有様である。

そこで、かつて天と祖先の恩によって立派な衣服をまとい、甘く肥えたごちそうを飽きるほど味わっていた身でありながら、父や兄の教育の恩に背き、師や友の戒めにもそむき、ついには何一つ身につけないまま半生を落ちぶれて過ごした――その罪を一冊に書きまとめ、世の人々に知らせようと思う。

私の罪が多いことは承知している。しかし、閨閣けいかくの女性たちの中には、はっきりと記憶に残る人々がいる。私自身が至らぬ者だからといって、自分の欠点を隠すために、彼女たちまで一緒に忘れ去らせてはならない。

今の住まいが、草葺きの窓と粗末な垂木、縄を張った寝床と土焼きのかまどしかない貧しい家であっても、筆を執る私の心を妨げるものではない。まして朝の風、夕べの月、階の柳、庭の花は、かえって筆と墨を潤してくれる。

私は学問も文章の才も乏しい。だが、作り話と世間の言葉を用いて物語に仕立ててもよいではないか。それによって女性たちの姿を世に伝え、ひとときの憂さを晴らし、同じ思いを持つ人々の目を覚ますことができるなら、ふさわしいことではないだろうか。

そこで、仮の言葉と世間の言葉という意味を賈雨村かうそんの名に託したのである。また、篇中に「夢」や「幻」などの字を用いるのは、それこそがこの書の本旨であり、読者の注意を促すためでもある。

訳文中の語句訳注
賈雨村かうそん原文では「作り話と世間の言葉」という「假語村言」と、人物名の「賈雨村」とを音で重ねている。

読者諸君、この物語がどこから始まったのかとお思いだろう。語ってみれば、でたらめにも思える話だが、じっくり味わえば実に興味深い。

さて、女媧じょかが石を焼いて天を補ったときのこと。大荒山だいこうざんの無稽崖むけいがいで、高さ十二丈じょう、一辺二十四丈の大石を三万六千五百一個作った。そのうち三万六千五百個を使い、ただ一個だけ使わず、青埂峰せいこうほうのふもとに捨て置いた。

訳文中の語句訳注
女媧じょか中国神話の女神。壊れた天を、五色の石を焼いて補ったと伝えられる。
大荒山だいこうざん物語に登場する神話的な山。現実の地理ではなく、物語の始まりを置く架空の場所。
無稽崖むけいがい大荒山にある架空の崖。「無稽」には、根拠がなく荒唐無稽であるという意味もある。
丈じょう古代中国の長さの単位。時代により実際の長さが異なるため、ここではメートルに換算せず、石の途方もない大きさを示す表現として残した。
青埂峰せいこうほう女媧が使わなかった一個の石を捨て置いた、架空の峰。

その石は、焼き鍛えられたことで霊性が通じ、自分で行き来し、自由に大きくも小さくもなれるようになっていた。ほかの石はみな天を補うために選ばれたのに、自分だけは才能がなく、選ばれなかった。それを見て、石は自らを恨み、恥じ、夜も昼も悲しみ続けた。

ある日、石が嘆き悲しんでいると、遠くから僧と道士どうしが一人ずつやって来た。二人は、骨格も姿も並の者とは違っていた。青埂峰のふもとに着くと、地面に座って語り合った。

訳文中の語句訳注
道士どうし道教を学び、修行する人。ここでは僧と連れ立って現れ、石を人間世界へ運ぶ役を担う。

二人は、鮮やかに輝き、清らかなその石が、扇につける飾りほどの大きさに縮んでいるのを見た。たいそう愛らしい。僧は石を手のひらに載せ、笑って言った。

「姿かたちは、たしかに霊妙なものとなった。だが、まだ実際の役に立つところがない。そこで、さらにいくつか文字を刻み、誰が見ても、おまえが珍しい品だと分かるようにしてやろう。そのうえで、文明の栄えた国、詩と礼を尊び代々官人を出してきた家、花と柳のにぎわう土地、やさしさと富に満ちた郷へ連れて行き、ひと巡りさせてやる」

石は聞いて大喜びし、尋ねた。

「どのような文字を刻んでいただけるのでしょう。どこへ連れて行ってくださるのでしょう。どうか、お教えください」

僧は笑って、「今は尋ねるな。いずれ自然に分かる」と言い終えると、石を袖に入れ、道士とともに、ふわりと去っていった。どちらへ向かったのか、その後どれほどの世と長い時を経たのかも、まるで分からない。

道を求め仙人を訪ねていた一人の空空道人くうくうどうじんが、大荒山の無稽崖、青埂峰の下を通りかかった。すると、文字がはっきり刻まれ、出来事が細かく記された大石を見つけた。

訳文中の語句訳注
空空道人くうくうどうじん道を求めて仙人を訪ね歩く人物。石に刻まれた物語を最初に読み取る役を担う。

空空道人が初めから読み始めると、それは、天を補う才能がなく、姿を変えて人間世界に入り、茫茫大士ぼうぼうだいしと渺渺真人びょうびょうしんじんによって俗世へ連れ込まれ、彼岸ひがんへ導かれた一個の石だった。そこには、落ちてきた場所、胎児として生まれた場所、さらに家庭のこまごました出来事、女性たちの世界の情趣、詩や詞や謎かけまで、すべてが記されていた。ただ、どの時代の何年のことかは失われ、考証できない。

訳文中の語句訳注
茫茫大士ぼうぼうだいしと渺渺真人びょうびょうしんじん石を俗世へ導いた二人の仙人。名前は、広大でぼんやりとした仙界の気配を表す。
彼岸ひがん迷いのこちら側である此岸に対し、悟りの境地や向こう岸を指す語。ここでは石が人間世界へ入ることを、仙界からの移行として表す。

その後ろには、次の偈げが記されていた。

訳文中の語句訳注
偈げ教えや心情を短い詩の形にまとめたもの。ここでは、石の来歴を締めくくる四句の詩。

天を補うこともできないまま、 これほど長く俗世に入り込んでしまった。 これは、生まれる前とこの世を去った後に関わる出来事。 いったい誰が記して、奇妙な物語として伝えてくれるのだろう。

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