ここが、本稿の核心に最も近い部分です。
これまで見てきた宗教や思想を並べること自体が目的ではありません。長い比較を重ねてきたのは、「人は神か」という問いが、実はそのままでは答えられないことを確かめるためでした。そこでいう「人」は人格的な私なのか、魂なのか、真の自己なのか。そこでいう「神」は人格神なのか、世界の根本なのか、人間に宿る神性なのか。式の左右が変われば、同じ「人は神である」という言葉の意味も変わります。
ここでは、新しい専門知識を増やすのではなく、これまで一つずつ見てきた内容を同じ問いのもとへ集めます。そして、神性と人格的自我、自己超越と自己神格化をどこで分けるべきなのかを考えていきます。
大きな表を横へ一気に読もうとすると、また分からなくなります。次の順番で、一枚ずつ見ていきます。
1 それぞれの「神」と「自己」
2 神と自己の関係
3 個人性と到達点
4 願望の位置
一行で思想全体を覚えようとしなくても大丈夫です。同じ問いに、それぞれがどう答えているのかを眺めてみましょう。
次の表は、各思想の全体を一行で定義するものではありません。統一教義を持たないニューエイジや現代スピリチュアルについては、特に「一部の潮流」「典型的用法」に限定しています。
最終比較でも、最初は式の左右へ戻ります。
| 思想・宗教 | 「神・究極者」に当たるもの | 「私・自己」に当たるもの |
|---|---|---|
| アドヴァイタ | 非二元のブラフマン | 経験上のジーヴァと、純粋意識としてのアートマンを区別 |
| ヴィシシュタ・アドヴァイタ | ナーラーヤナ/ブラフマン | 実在する個別のジーヴァ |
| ドヴァイタ | 最高神ヴィシュヌ | 神に全面依存する実在的魂 |
| 黒住教 | 天照大御神 | 分心をいただく神の子 |
| 金光教 | 天地金乃神 | 神の子・氏子 |
| 大本 | 主神・独一真神、万物普遍の霊 | 天地経綸を担う主体 |
| 近代神智学 | 一者、モナド等を置く階層的宇宙論 | 一生の人格を越え、転生し進化する個体性 |
| エマーソンの Over-Soul | 個々を包含する一なる霊的実在 | 全体の魂が働く個人 |
| 現代の group soul / soul family 系 | 大きな魂、魂系統、共通の源など | 大きな全体へ属する個別魂 |
| 一部の願望実現型スピリチュアル | 宇宙、Source、創造意識 | 神的創造力を持つ本当の自己 |
次に、左右をどう結ぶかだけを取り出してみましょう。
| 思想・宗教 | 神・究極者と自己の関係 |
|---|---|
| アドヴァイタ | 真我とブラフマンは究極的に非二元 |
| ヴィシシュタ・アドヴァイタ | 魂と世界は神の身体・様態として包含される |
| ドヴァイタ | 神と魂は永遠に異なる |
| 黒住教 | 神性が内在し、神徳に生かされる |
| 金光教 | 区別を保ちながら、あいよかけよに立ち行く |
| 大本 | 神人合一して神意を実践する |
| 近代神智学 | 高次原理と宇宙的進化へ連なる |
| エマーソンの Over-Soul | 個別存在は一なる魂に含まれ結ばれる |
| 現代の group soul / soul family 系 | 展開、所属、経験・使命の共有など諸説 |
| 一部の願望実現型スピリチュアル | 私と宇宙は一つとされる場合がある |
基本関係を確認した後で、個人性と到達点を追加します。
| 思想・宗教 | 個人性 | 到達点 |
|---|---|---|
| アドヴァイタ | 個我を独立した究極実在としない | 非二元性の認識、解脱 |
| ヴィシシュタ・アドヴァイタ | 残る | 神の直観、帰依、奉仕 |
| ドヴァイタ | 明確に残る | 恩寵と帰依による解脱 |
| 黒住教 | 残る | 分心・神心を養い、誠に生きる |
| 金光教 | 残る | 取次と日常生活の中で助かりを開く |
| 大本 | 使命主体として残る | 立替え立直し、理想世界の実現 |
| 近代神智学 | 強く残る | 多数の転生を通じた霊的進化 |
| エマーソンの Over-Soul | 日常的意志は相対化される | 全体の魂への参与、倫理的・霊的覚醒 |
| 現代の group soul / soul family 系 | 多くの場合残る | 再統合、学び、使命など諸説 |
| 一部の願望実現型スピリチュアル | 強く残る場合がある | 自己実現、現実創造、豊かさなど |
この表から、「神と人の距離が近い順」に宗教を一列に並べることはできません。
黒住教では内在、金光教では相互関係、大本では合一と使命、ラーマーヌジャでは包含、シャンカラでは非二元、マドヴァでは依存的二元が中心になります。距離の近さだけでなく、個人性、世界、救済の方向を見る必要があります。
ニルグナ/純粋精神とワンネスによる再点検
前半で追加した二軸を、本稿の主要比較対象へ戻してみましょう。
ここでいう「ニルグナ」は、性格や姿、働きなどの限定的な属性を持たないという意味です。「純粋精神」は、物質や心の内容とは区別される、意識そのものに近い考えを広く指します。「ワンネス」は、人間、神、世界が何らかの意味で一つである、または切り離せないとする考えです。ただし、「ワンネスあり」といっても、何がどのような意味で一つなのかは思想ごとに異なります。
| 思想・宗教 | ニルグナ/純粋精神に相当する概念 | ワンネスの型 |
|---|---|---|
| アドヴァイタ | 明示的。ニルグナ・ブラフマン、純粋意識としてのアートマン | 究極的同一・非二元 |
| ヴィシシュタ・アドヴァイタ | シャンカラ型の無属性理解を採らず、無限の吉祥な属性を持つ神を説く | 包含。一なる神の中の多数 |
| ドヴァイタ | シャンカラ型の無属性理解を採らない | 神人同一を否定。帰依・関係としての一体性 |
| 黒住教 | 古典的ニルグナ概念ではない。天照大御神の分心・神心を説く | 神性の内在、神人一体。ただし人格的自我=絶対者ではない |
| 金光教 | 古典的ニルグナ概念ではない。天地金乃神との関係が中心 | 相互関係。「神あっての人、人あっての神」 |
| 大本 | 「万物普遍の霊」に機能的類似は見えるが、ニルグナ・ブラフマンとは別 | 神人合一と共同使命、天地経綸 |
| 近代神智学 | モナド、一者、高次原理に機能的類似があるが、階層的宇宙論と霊的進化の体系 | 根源的一者、階層的連続、個体の進化 |
| Over-Soul/group soul 系 | 流派により、高次意識・大きな魂という機能的類似 | 包含、所属、分有、再統合など諸説 |
| 願望実現型の一部 | Source、宇宙意識、純粋意識などを用いる場合があるが、定義は統一されない | 「私と宇宙は一つ」が創造主体の強調へ結びつく場合がある |
この表が示すのは、純粋精神の概念と一体性の概念が独立した変数だということです。純粋精神を説いても多数性を保つ思想があり、非分離を説いても純粋精神実体を立てない思想があります。また、神性の内在、神との相互関係、神人合一、包含、非二元は、いずれも「ワンネス」の一語では置き換えられません。