『ヴォルガ・ブルガール旅行記(リサーラ)』――グッズの人々のもとで


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グッズの人々のもとで

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その山を越えると、グッズと呼ばれるトルコ人の部族のもとへ出た。彼らは毛で作った天幕に住む遊牧民で、ある所にとどまっては、また移って行く。ある場所にはいくつもの天幕があり、別の場所にも同じようにあった。遊牧民の常として、移り住みを繰り返しているのだ。彼らの暮らしは苦しかった。

表記 訳注
グッズ 原文の部族名を音写した表記。本文の生活・信仰・慣習の説明は、旅人である著者の観察や判断であり、集団全体について現代に検証された事実を示すものではない。

それでいて、彼らは迷い歩くロバのようである。神を信仰せず、理性に立ち返ることもなく、何ものも拝まない。ただ、自分たちの年長者を「主たち」と呼んでいる。誰かが首長に何かを相談すると、「わが主よ、これこれについて、どうしたらよいでしょうか」と尋ねる。彼らのことは、互いに相談して決める。だが、あることに意見がまとまり、実行すると決めても、その中でいちばん身分が低く、つまらない者がやって来て、合意したことを覆してしまう。

表記 訳注
迷い歩くロバのよう 著者の宗教的な評価を含む比喩。訳者による評価ではない。

私は、彼らが「神のほかに神はない。ムハンマドは神の使者である」と言うのを聞いた。しかし、それを信じているからではなく、自分たちの所を通るイスラーム教徒に、この言葉で近づこうとしているのである。誰かが不当な扱いを受けたり、嫌なことに遭ったりすると、空に向かって顔を上げ、「ビル・テングリ」と言う。これはトルコ語で「一なる神」という意味である。「ビル」はトルコ語で「一」、「テングリ」はトルコ人の言葉で「神」を表す。

表記 訳注
ビル・テングリ 著者はこの言葉を「一なる神」と説明している。ここでは原文中の説明を訳した。

彼らは大便や小便の後に洗い清めず、性交などの後にも体を洗わない。とりわけ冬は、水を使うことがまるでない。彼らの女たちは、男たちからも、ほかの誰からも身を隠さない。女性は誰に対しても、体のどの部分も隠さないのである。

ある日、私たちは彼らの一人の家に泊まり、その場に座っていた。私たちと一緒に、家の主人の妻もいた。彼女は私たちに話しかけている最中に、自分の陰部を露わにして、そこをかいた。私たちはそれを見て顔を覆い、「神にお許しを願います」と言った。夫は笑って、通訳にこう言った。

「この人たちに伝えてくれ。お前たちの前でさらけ出しても、お前たちはそれを見て大切に守り、そこへ手を出さない。そのほうが、覆い隠しておいて、人を近づけるよりもよいのだ。」

彼らの間に姦通はない。そんな行為をしたことが発覚すると、体を二つに裂くのである。二本の木の枝をたわめて寄せ、その枝に当人を縛りつける。それから二本の木を放すと、縛りつけられた者の体が引き裂かれる。

表記 訳注
彼らの間に姦通はない 著者による一般化。直後には発覚した場合の刑罰が記されるため、行為が絶対に存在しなかったと証明する文ではない。

彼らの一人が、私にクルアーンを読むようにと言った。私が読むと、それを気に入り、通訳に向かって「この人に、やめないでくれと伝えてくれ」と繰り返した。

表記 訳注
私にクルアーンを読むように 採用刊本は、朗読を頼む動詞を補って文意を整えている。この訳はその読みに従う。

この男はある日、通訳を通じて私に言った。

「このアラブ人に尋ねてくれ。我らの主、威光と尊厳あるお方には、妻がいるのか。」

私はそれを大変なことだと思い、神をたたえて、その許しを願った。すると彼も、私と同じように神をたたえ、許しを願った。トルコ人にはこのような習慣があり、イスラーム教徒が神をたたえ、神のほかに神はないと唱えるのを聞くたびに、同じことを口にするのである。

8

彼らの結婚の習慣は、次のようなものだ。男が別の男に、その娘や姉妹、あるいはその男が婚姻を取り決める立場にある女性を妻に迎えたいと申し入れる。そして、ホラズムの衣服を何枚というように、婚資を取り決める。合意ができると、それを相手へ届ける。婚資がラクダや家畜、あるいはほかのものであることもある。

表記 訳注
婚姻を取り決める立場にある女性 原文は、その男が婚姻の決定に関与する女性を挙げる。娘や姉妹の列挙を含め、著者が記す当時の慣習として訳した。

男は、女性の後見人と取り決めた婚資をすべて納めるまで、妻と交わることはできない。納め終えると、遠慮する様子もなく、女性のいる天幕に入る。そして、彼女の父、母、兄弟たちの前で彼女と交わる。家族はそれを止めない。

妻と子供たちのいる男が死ぬと、その妻が息子自身の母でないかぎり、息子たちのうち最年長の者が彼女を妻にする。

商人でも、ほかの者でも、彼らの前で性交後の体を洗うことはできない。洗うなら、彼らに見られないように夜にするしかない。彼らは怒り、「この者は我々に魔法をかけようとしている。水の中をじっと見ていたのだから」と言って、金を払わせるからだ。

表記 訳注
水の中をじっと見ていた 刊本の読み تفرس في الماء に沿った訳。前後の魔法への疑いは、著者が伝える土地の人々の発言である。

イスラーム教徒は誰でも、この国を通るには、泊めてもらう相手を一人決めておかなければならない。イスラームの国から、その相手に衣服を一着、妻にはミクナアという覆い布、それにコショウ、キビ、干しブドウ、クルミを持って行くのである。

表記 訳注
ミクナア 持参する覆い布の名称を音写した。
泊めてもらう相手を一人決めて 続く贈り物と宿泊の叙述につながる、土地の人との関係づくりを述べる箇所。

その友人のもとへ着くと、友人は客のために天幕を張り、自分の資力に応じた数の羊を連れて来る。そして、その羊を屠るのは、客であるイスラーム教徒に任せる。トルコ人は喉を切って屠ることはせず、羊が死ぬまで頭を打つからである。

客が出発しようとするとき、自分のラクダや家畜のどれかが疲れて動けなくなっていたり、金が必要になったりすれば、その動物をトルコ人の友人に預ける。そして、友人のラクダや家畜、金から必要なものを借りて旅立つ。目指した土地から戻ると、借りた金を返し、ラクダや家畜も返すのである。

同じように、見知らぬイスラーム教徒がトルコ人の前を通り、その人に「私はあなたの客です。あなたのラクダや家畜、ディルハム貨をお借りしたい」と言うと、求めるものを渡してくれる。

もしその商人が旅先で死に、隊商だけが戻って来ると、そのトルコ人が出迎えて、「私の客はどこにいる」と尋ねる。「死んだ」と答えられると、隊商の荷を下ろさせる。そして、その中でいちばん富裕だと思う商人のもとへ行き、見ている前でその荷物をほどく。自分の出した金と同じ額を、その商人のディルハム貨から受け取り、一粒たりとも余計には取らない。家畜やラクダについても同じように取り、「あの男はお前の父方のいとこなのだから、お前こそ、あの男の分を弁償すべきなのだ」と言う。

表記 訳注
父方のいとこ 原文ではこの親族呼称を使って、同じイスラーム教徒の商人に弁償を求める。二人の実際の血縁が確認されたという意味ではない。

その商人が逃れた場合にも、同じようにして、「あの男はお前と同じイスラーム教徒だ。お前がその男から取り立てればよい」と言う。

イスラーム教徒の客が、道中でトルコ人の宿主に会えなかった場合には、どこの国の者かを尋ね、「どこにいるのか」と聞く。居場所を教えられると、その男を捜しに何日も旅をして、ようやく会い、そのもとへ金を届ける。贈り物も同じように届けるのである。

表記 訳注
そのもとへ金を届ける この句の原文は語のつながりが滑らかではない。前後の貸借と返済の文脈に沿って訳したが、写本の語句の確定には留保がある。

トルコ人がジュルジャーニーヤに入るときも同じである。かつて自分の客だった人を尋ね、その家に泊まって、出発まで過ごす。

もし、そのトルコ人がイスラーム教徒の友人の家で死に、友人もいる隊商がトルコ人の国を通ると、彼らはその友人を殺す。「お前が家に泊めたから、あの男は死んだのだ。泊めなければ死ななかった」と言うのである。また、友人が彼に酒を飲ませ、その男が塀から転落した場合にも、それを理由に友人を殺す。友人が隊商にいなければ、一行の中で最も重んじられている者を選んで殺す。

彼らの間では、男同士の性行為はきわめて重大なこととされている。あるとき、トルコ人の王の代理であるクーズルキーンの一族のもとに、ホラズムの男が泊まった。その男は、泊めてくれた相手の家で、羊を買うためにしばらく滞在していた。

表記 訳注
男同士の性行為 原文の اللواط。ここでは著者が記す特定の行為とその裁定を訳しており、現代の性的指向や集団全体への評価を表す語として用いていない。
クーズルキーン 本文ではトルコ人の王の代理と説明される人物の呼称。読みは暫定。

そのトルコ人には、まだひげの生えていない息子がいた。ホラズムの男はその息子に気を配りながら近づき、関係を求め続け、ついに自分の望みに応じさせた。父親がやって来て、二人が天幕の中にいるのを見つけた。そこで、父親はこの件をクーズルキーンに訴えた。クーズルキーンは「トルコ人たちを集めよ」と命じ、父親は人々を集めた。

人々が集まると、クーズルキーンは父親に言った。

「正しく裁いてほしいのか、それとも不正に裁いてほしいのか。」

父親は「正しく」と答えた。

「息子を連れて来い」と言われ、父親は連れて来た。

クーズルキーンは、「この息子と商人は、二人とも殺さなければならない」と言った。

父親はこれに腹を立て、「息子を引き渡すことはしない」と言った。

そこで、クーズルキーンは「それなら商人に身代金を払わせればよい」と言った。商人はそのとおりにした。息子との行為に対して父親へ羊が支払われた。また、処罰を免れさせてもらったことに対して、クーズルキーンへ羊四百頭が支払われた。そして商人は、トルコ人の国を去った。

表記 訳注
羊四百頭 クーズルキーンに支払われた数。父親に支払われた羊について、原文は頭数を挙げていない。

9

彼らの王や首長のうち、私たちが最初に会ったのは、イナール・アッ=サギールだった。彼は以前、イスラームに入信したことがあった。だが、「イスラームに入ったのなら、我々の首長にはなれない」と言われ、イスラームを捨てたのである。

表記 訳注
イナール・アッ=サギール 原文の呼称を音写したもの。「アッ=サギール」は「小さい」を意味するが、この箇所では人物の呼称として残した。

私たちが彼のいる所へ着くと、彼は言った。

「お前たちを通すことはできない。こんなことは、これまで一度も聞いたことがなく、起こるとも思っていなかったからだ。」

私たちは穏やかに働きかけ、ようやく彼に、十ディルハムに相当するジュルジャーニーヤのハフターン、バーイ・バーフという布一枚、丸いパン、ひと握りの干しブドウ、クルミ百個を受け取ってもらった。

表記 訳注
バーイ・バーフ 刊本に記される布の名称の音写。具体的な品種と読みの確定は保留する。

これらを渡すと、彼は私たちに平伏した。彼らには、人から厚くもてなされると、その相手に平伏する習慣がある。そして彼は言った。

「私の住まいが街道から遠くなければ、お前たちに羊と小麦を持って来たのだが。」

彼は私たちのもとから引き揚げ、私たちも出発した。

翌日、私たちは一人のトルコ人に会った。醜い顔立ちで、身なりはみすぼらしく、見るからに貧弱で、内面も卑しい男だった。私たちは激しい雨に見舞われていた。その男が「止まれ」と言うと、隊商全体が止まった。動物がおよそ三千頭、人がおよそ五千人もいる隊商である。

表記 訳注
内面も卑しい 前後の容貌・身なりの表現とともに著者による人物評価であり、訳者がその人物を評価しているのではない。

彼は続けて、「誰一人、通してはならない」と言った。私たちはその命令に従って立ち止まり、こう言った。

「私たちはクーズルキーンの友人です。」

すると彼は笑い出し、「クーズルキーンが何だ。俺はクーズルキーンのひげに糞をするぞ」と言った。それから「バカンド」と言った。ホラズムの言葉でパンという意味である。

私は丸いパンをいくつか渡した。彼はそれを受け取り、「行け。お前たちを哀れんでやったのだ」と言った。

彼は続けて、こう述べた。

彼らの一人が病気になり、その男に女奴隷や男奴隷がいれば、奴隷たちが世話をする。家族は誰も近寄らない。住居から離れた所に天幕を張り、死ぬか治るかするまで、そこに置いておく。病人が奴隷や貧しい者であれば、荒野へ放り出して、その場を去る。

男が死ぬと、家のような形をした大きな穴を掘る。そして死者のもとへ行き、クルトゥクを着せ、帯と弓を身につけさせる。酒の入った木の杯を手に持たせ、その前にも酒を入れた木の器を置く。財産をすべて運んで来て、この穴の中の家に一緒に納める。

表記 訳注
帯と弓を身につけさせる この後、写本には一語分の空白があると採用刊本は記す。欠けた語の内容は補っていない。

それから死者をそこに座らせ、上に屋根をかけ、その上を粘土で丸天井のようにする。その男が持っていた家畜の多さに応じて屠り、百頭、二百頭から、少なければ一頭まで、頭数はさまざまである。肉は食べるが、頭、脚、皮、尾は残して、それを木に掲げる。そして、「これが、あの男が乗って天国へ行く家畜なのだ」と言う。

表記 訳注
天国 この箇所では死者の家畜や従者について、土地の人々の言葉として著者が伝える表現。訳者が死後の世界について断定しているのではない。

もし死者が人を殺したことのある勇敢な男であれば、殺した人数だけ木で人形を作り、墓の上に置く。そして、「これが、天国であの男に仕える若い従者たちだ」と言う。

家畜を屠るのを一日か二日、怠ることもある。すると、年長者の中から一人の長老がやって来て、こう言う。

「夢の中で、亡くなった誰それを見た。あの男が私に言ったのだ。『仲間たちが私を追い越して行った。後を追って歩き続け、足にひびが入ってしまったが、追いつけない。私だけが取り残されている』と。」

表記 訳注
足にひびが入ってしまった 採用刊本の読みを訳した。原文の文字には別の読みの提案もあり、写本の語句がすべて確定しているという意味ではない。

そこで彼らは、死者の家畜を屠り、墓の所に掲げる。

その一日か二日後、同じ長老がやって来て、「誰それに会った」と言い、こう続ける。

「家族と仲間たちに、私は先に行った者たちに追いつき、疲れから解き放たれたと伝えてくれ、と言っていた。」

10

彼はこう述べた。

トルコ人は皆、口ひげを除いて、ひげを抜いている。ひどく年老いた長老を見かけることもあった。ひげを抜き、顎の下にだけ少し残して、ブースティーンを着ている。遠くから見た者は、雄ヤギだと思って疑わないだろう。

表記 訳注
口ひげ 原文の أسبلة。ここでは、抜くひげと、残す口ひげを区別して訳した。続く雄ヤギの比喩は著者の表現である。

グッズのトルコ人の王は、ヤブグーと呼ばれる。これは首長の称号で、この部族の王になった者は、誰でもこの名で呼ばれる。その代理はクーズルキーンと呼ばれる。同じように、首長の代理を務める者は皆、クーズルキーンと呼ばれるのである。

表記 訳注
ヤブグー 原文は يبغو。著者は、個人名ではなく部族を治める首長の呼称として説明している。読みは暫定。

私たちは彼らのいる所を出発した後、軍を率いるアトラク・ブン・アル=カタガーンという人物のもとに泊まった。彼は私たちのためにトルコ式の丸天井の天幕を張り、そこへ泊めてくれた。彼には家族や従者がおり、大きな住居もあった。羊を私たちのもとへ追って来させ、乗用の家畜も連れて来させた。私たちが羊を屠り、家畜に乗れるようにするためである。そして、家族や父方のいとこたちを集め、多くの羊を屠ってもてなした。

表記 訳注
アトラク・ブン・アル=カタガーン 刊本に記される軍の指揮者の名。日本語の読みは暫定。

私たちは彼に、衣服、干しブドウ、クルミ、コショウ、キビを贈っていた。私は彼の妻を見た。彼女は以前、彼の父の妻だった。肉と乳、それに私たちが彼に贈った品の一部を取り、住居から荒野へ出て行った。そこで穴を掘り、持って来たものを埋め、何か言葉を唱えた。

私は通訳に「何と言っているのですか」と尋ねた。通訳は、「『これはアトラクの父カタガーンへの贈物です。アラブ人たちが彼に贈ったのです』と言っています」と答えた。

夜になると、私と通訳は彼のもとへ入った。彼は自分の天幕の中に座っていた。私たちは、ナズィール・アル=ハラミーから彼に宛てた書状を持っていた。イスラームに入るよう命じ、強く勧める書状である。

ナズィールは彼に五十ディーナールを送っていた。その中にはムサイヤビーヤ金貨も何枚かあった。ほかに、麝香三ミスカール、なめし革、マルウの織物があった。私たちはその織物で彼のためにクルトゥクを二着仕立てた。さらに、革靴、錦の衣服一着、絹の衣服五着もあった。私たちはこれらの贈物を彼に渡し、妻にはミクナアと指輪を渡した。

表記 訳注
ミスカール 重さの単位。麝香の量を示す原文の数値と単位を保持し、現代単位への換算はしていない。
マルウの織物 マルウに由来する名称の織物。衣服二着のほか、錦と絹の衣服の列挙は別に残した。

私は彼に書状を読み上げた。彼は通訳に言った。「お前たちが戻って来るまでは、何も言わない。自分がどうするつもりなのかは、君主へ書き送る」。

彼は、先ほど述べた贈り物の衣服を着ようとして、身につけていた錦の衣を脱いだ。すると、その下のクルトゥクが見えた。垢でぼろぼろになっていた。彼らには、肌に直接つける服は、ぼろぼろに崩れ落ちるまで脱がない習慣があるからである。彼はあごひげも口ひげもすっかり抜いていて、召使いたちのような姿になっていた。

表記 訳注
召使いたちのような姿 原文の كالخدام による著者の比較。ここでアトラク自身が召使いだったと述べているのではない。

トルコ人たちが、彼は自分たちの中でいちばん馬術にすぐれていると言うのを、私は聞いた。実際、ある日、彼が馬に乗って私たちと一緒に進んでいたときのことだ。ガチョウが一羽、飛んで通りかかった。彼は弓に弦を張り、鳥の下で馬を走らせ、それから矢を放った。すると、たちまち鳥を射落としていた。

ある日、彼は配下の指揮官たちを呼び寄せた。タルハーン、イナール、その二人の甥、それにイルガズである。この中で最も身分が高く、重んじられていたのはタルハーンだった。足が不自由で、目が見えず、手も利かなかった。

表記 訳注
タルハーン 刊本の طرخان を音写した。この箇所では協議に加わる人物の呼称として用いられる。読みは暫定。
イルガズ 刊本の إيلغز に沿った暫定的な読み。

アトラクは彼らに言った。「この者たちは、アラブの王が、婚姻で私の親族となったアルミシュ・ブン・シャルキーのもとへ遣わした使者たちだ。お前たちに相談せずに通してやるわけにはいかなかった」。

表記 訳注
アルミシュ・ブン・シャルキー この箇所の刊本表記 ألمش بن شلكي に従った呼称。冒頭の王の父名とは形が異なるため、黙って統一していない。
婚姻で私の親族となった 原語は صهري。婚姻による親族関係を表すが、ここでは娘婿などの具体的な関係を補っていない。

タルハーンは言った。「こんなことは一度も見たことがないし、聞いたこともない。我々や父祖の代から、君主の使者が我々の土地を通ったことなどない。きっと君主は策略をめぐらし、この者たちをハザルへ遣わして、我々を攻める援軍を求めようとしているのだ。この使者たちを一人ずつ真っ二つにして、持ち物を取り上げるのがよい」。

別の一人は言った。「いや、持ち物を取り上げ、裸にして、来た所へ帰してやろう」。

また別の一人は言った。「いや、ハザルの王のもとには、我々の仲間が捕虜になっている。この者たちを送り、あの捕虜たちと引き換えにしよう」。

彼らは七日間、このような案を互いに論じ続けた。私たちは死を目前にしていた。やがて、私たちを解放し、先へ進ませることで意見がまとまった。

そこで私たちはタルハーンに、マルウのハフターン一着と、バーイ・バーフの布二枚を贈った。彼の仲間には一人ずつクルトゥクを贈り、イナールにも同じように贈った。さらに、コショウ、キビ、丸いパンを渡した。彼らは私たちのもとを去った。

11

私たちは出発し、ヤグンディー川まで来た。人々はスフラを取り出した。ラクダの皮でできたもので、それを広げた。そして、丸みのあるトルコの雌ラクダを使い、皮の内側に入れて皮を張り延ばした。それから、衣服や荷物を詰め込んだ。

表記 訳注
スフラ 原文の سفرة。ここではラクダの皮でできた品を、荷物や人を載せて川を渡るために使う。訳文は本文が述べる手順に従い、記されていない骨組みや加工法を補っていない。

いっぱいになると、スフラ一つごとに、五人、六人、四人、あるいはそれより少なく、または多くの者が乗り込む。ハダンクの木の棒を手に取り、櫂のように使う。水に運ばれてくるくる回りながら、向こう岸へ着くまで漕ぎ続けるのである。

表記 訳注
ハダンク 木の名称 الخدنك を音写した。樹種の同定は確定していない。

乗用の家畜やラクダには声をかけ、泳いで渡らせる。隊商の人や荷物が渡り始める前に、武器を持った戦士の一団が必ず先に渡らなければならない。人々のための先遣隊となるのだ。渡河中の人々をバシュギルドが不意に襲うのを恐れてのことだった。

表記 訳注
バシュギルド 刊本の الباشغرد。ここでは渡河中の襲撃を恐れる相手として言及される。

私たちは今述べた方法でヤグンディー川を渡った。その後、ジャームという川も、同じようにスフラで渡った。それから、ジャーフシュ、アザル、アルダン、ワーリシュ、アフティー、ワブナーを渡った。これらはどれも大きな川である。

表記 訳注
ヤグンディー川 河川名は採用刊本の表記に従い、現代の地名へ置き換えていない。続くジャーム、ジャーフシュ、アザル、アルダン、ワーリシュ、アフティー、ワブナーの読みと同定も暫定。
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